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それも仕方のないこと。いくらしっかりとしたお姉さんであっても梓沙はまだ中等部の少女、それなりに知識のある大人のように振る舞い考えを導くのは困難です。
起こしても目覚めない秋良をまえに、ようやく弟はただ寝ているだけではないと悟りました。とても重く危ない状態にあって、もしかすると頭を打ち昏倒したのではと考えました。
その発想は以前クラス別の授業で受けた、事故などで怪我を負ったひとを発見したときの対応と行動のリストに含まれていた状況と、まさしく今置かれている状況が酷似していたから。
実際には脳挫傷などの類ではなく、精神的な負荷による無意識化の昏睡です。
けれど取るべき行動は間違ってはいません。学んだとおり梓沙は負傷者に意識がないことを確認すると、スマートフォンから救急ダイヤルにコール。
通話状態になると状況と負傷者の様子を説明し、すぐに救急車を寄越すよう伝えました。そのとき周りに目を向けていればよかったのですが、こと細かに状況を確認してくる相手に意識を奪われ梓沙は油断していたのです。
あっと気づいたときには時すでに遅く、男の大きな拳が目のまえに迫ってきました。避ける間もなくそれは頬に直撃し、梓沙は遊歩道まで吹き飛ばされてしまったのです。
未だスマートフォンから聞こえる指令課員の声。殴られた際、梓沙の手より離れ地面に転がるそれに気づいた男は力いっぱい踏み潰して大破。
これで助けの手は絶たれたか、いや充分に説明はしたつもりだと、燃えるように熱く痛む頬を手で覆いながら梓沙は考えます。
そしてゆっくりと起き上がると、男に立ち向かっていったのです。
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