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秋良にとっては夢の世界、家族にとっては悲しみに暮れる日がつづきます。
母親からは笑顔が消え、父親は職場と病室の往復に疲れの色が見えます。ですが可愛い我が子のまえでは涙も見せず、眠りつづける秋良に無二の愛情を注ぎました。
貿易商である秋良の父親は、これを機に商社を退職し自営に向け行動を起こしました。ひとえに息子と過ごす時間を一秒でも多くしたいがため、秋良が眠るあいだに環境は大きく変わるのでした。
休日になると父親は秋良を連れ方々の工房に足を運ぶことが多く、秋良もまた幼い頃より輸入家具や雑貨などインテリアに触れることを楽しく感じていました。
秋良は父親の仕事に興味を示します。
いつか父と子ともに働きたいと夢を描き、学び吸収した知識と情報を父親は息子に授けます。それは未来に花ひらくことになるのですが、まだまだ遠い未来のこと、別のお話として。
入院から二週間が過ぎ、今日も梓沙が秋良のそばで話しかけます。
「おーい秋良、いつまで眠ってるつもりよ。もう怪我だって治ってるってのにさ、あんたみたいな寝坊助そうそういないよ。ったく」
スパルタがモットーである姉・梓沙。弟のおちょぼ鼻を指でつまむと三十秒ほど放置、絶えられなくなった秋良は無意識化で口唇をひらき酸素を吸おうとします。
それを「させるか」とばかりにもう片方の指でつまみ、梓沙はにやりとほくそ笑みます。あまりにも酷い虐待行為ではありますが、これが姉にとっての愛情表現だったのです。
ぷるぷると震える秋良は酸素を求め、とうとう我慢ができなくなり身悶えます。そしてつぎの瞬間「ぷはあっ」と大口をひらき飛び起きるのでした。
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