ぼくへと紡ぐDiary

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 初めのうちは暴力的な行為の数々に怯えるぼくだったけど、少しずつコツを掴みだすと思いのほか楽しくて半月もすれば明日の稽古を待ち望むまでに気持ちが変化する。  当時ぼくは初等部二年生で、クラスの男子一低身長で食も細く体格は女子よりも華奢だった。残念ながら思春期以降も身長と体格に卓越した変化は見られず、そこは語れば落ち込んでしまうので割愛させてもらう。  ともあれ七歳の頃より姉から護身術を習うコトになった。  その話を聞いた父が場所を提供してくれ、つかっていない離れを改装して道場にしてくれた。今から思えば男子として生まれたもの、軟弱なぼくを父は歯痒く思っていたのではないかと推測する。  よく「お姉ちゃんと性別が逆だったら釣り合いが取れたのにな」と冗談のように話し笑っていたけれど、そのなまじ笑えないジョークを言われる度に悲しさと申し訳なさで胸が押しつぶされそうだった。  けれど梓沙姉さんはぼくの胸裡を察してくれ、 「気にするな、その分強くなればいいだけのこと。それに男らしい秋良なんて私の弟じゃない、あんたはそのまま変わらず自分らしく生きればいい」 なんて嬉しくなるようなコトを言ってくれた。  先にも後にも姉がぼくに対し優しい言葉をかけてくれたのはそのとき限りだけど、今でもあのときにかけてくれた言葉はぼくを救ってくれている。  おかげで殻にこもるコトも自虐に走るコトもなく、無理に変わろうなど思うコトもなく成長できたから姉には感謝だ。  ちなみに慰めてくれたとき頭を撫でてくれたけど、頭部をさする姉の手は思いのほかつよく痛かった。あれは女じゃない、ここだけの話きっと男だと確信する。
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