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その日は梓沙のクラス行事に関するディスカッションでホームルームが長引き、帰ったら遊ぼうと友達と約束していた秋良は姉を待たず帰途につきました。
教室をあとにする際、梓沙からスマートフォンに連絡がありました。
『もうすぐ終わるから大人しく待っていろ』と。それから『勝手に校舎を出たらお仕置きする』とも言われたので、怖くなった秋良は姉の言葉に従いエントランスでひたすら待ちつづけます。
けれどもいくら待ちつづけても梓沙はやってきません。電源を落としているのかスマートフォンもつながらず途方に暮れた秋良は、友達と約束をしているから先に帰るとメールを送りました。
約束は必ず守らなければいけない、友達は大切にしなければならないと両親より教わっていた梓沙と秋良です。友達を待たせてはいけない秋良の気持ち、姉ならば分かってくれるだろうと判断してしまったのです。
このとき秋良は思い違いをしていたのですが、そうとは知らず学園都市を離れてしまったことが自ら悲劇の許へ向かう結果となりました。
梓沙が弟を単独行動させないのは迷子になるからだと秋良は考えました。
けれどもこれまで何度も姉と通学してきたのですから、いくら天然で頼りのない秋良であっても迷うことなく邸へと戻れます。
改札を抜けひとりで電車に乗り目的のホームで降りると、階段を下りてくてくと駅から繁華街に向け歩きます。
時計を確認すれば約束の時間が迫っていました。慌てた秋良はいつもの道を通らず、近道である公園を通り抜けて帰ろうと思いつきました。
ですがその公園は決まった時間以外に人のすがたはなく、ひとりで遊びにでかけたりしてはいけないと言われていたのです。
けれど今は一分でも急いで帰りたい焦燥から秋良は言いつけを破ってしまいました。
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