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男は何をしようというのでしょう。
彼は少年ばかり狙っては襲う極悪人。その戦利品として男は少年の左薬指を持ち去るのです。少年を凌辱したという証拠とサイン、そしてコレクションとして集めているのでした。
それに左の薬指を失くしてしまえば、これから大人と育ってゆく少年がいつの日か結婚をしてもマリッジリングで指を飾れない、要は男の所有物だという歪んだ独占欲から最後の犯行をおこなうのです。
心を閉ざした秋良は指に冷たい刃があてがわれていようと、その感触に気づくことがありません。歓喜に震える男が唾を呑み込みのど仏が上下し、腕に力をこめナイフを落とそうと──
「秋良──っ!」
危機一髪。秋良の手より指が離れるまえに、ナイフもろとも男は茂みの奥へと吹っ飛びました。男は顔から地面に着地した際、鼻を強打して痛みのあまり転げまわっています。
骨折をしたのでしょう鼻からは滝のように血が流れ、マスクを通し唸り声が聞こえてきます。そこまでの深手を負わせた人物はひとりの少女、秋良の姉である梓沙でした。
ひと足先に学園を後にした秋良を追って彼女も帰途につきました。
ふだんであれば近道の公園ではなく通常のルートを進みますが、運よく秋良が公園のほうへ向かったと同級生が目撃したとの情報を得て、強烈な胸騒ぎを覚えた梓沙は遊歩道に急ぎました。
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