魔法

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「予約の高橋様がお見えです」 バックルームに受付スタッフが呼びに来た。 「すぐ行く」 パソコン画面を閉じて、店に出た秀馬は「ありがとうございます。また、お越しください」と言うスタッフの声に出入り口に視線を向けた。 ーーーあれは……。 さきほど、秀馬がカットした女だった。ブローしてセットされた女は、さっきまでぶざまなざんぎりと同一人物だと思えないくらい洗練されて見えた。 「あ、秀馬さん。見ました? 彼女! すっごく可愛くなりましたよ! 元が良かったのもあるけど、やっぱスゲーよ。カリスマだわ」 やけに感心して歩が言ってきた。 「まあな。すごいざんぎりも俺にかかればな」 "落ちにくい汚れも簡単に落ちる"と、外国の洗剤を売る通販みたいな台詞を口にしていた。秀馬もカットの出来映えに満足していた。 ーーーやり甲斐のある仕事だよなぁ。美容師って。 美容師と言う職業に、秀馬は誇りと喜びを感じていた。
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