ブローチ

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ーーー綺麗に…忘れていたのに……。 思い出した所で何の得にもならない。もう、とっくの昔に病気で死んだ父親のこと、そして……馬蹄のブローチ……母親のことを。 「いらっしゃいませ?」 ドアが開き、中から女が出てきた。 「あっ……」 ーーーでた! ざんぎり。 「あ、カリスマさん! こんばんは?」 ニコニコと愛想よく笑う女。 ーーーなんでまた、このザンギリがここに現れたんだよ。 「カリスマさんって……俺は……」 名乗ろうと思ったが、やめた。 ーーー必要ないな。きっと二度と会わないんだから。 「カリスマさん、せっかくだから中へどうぞ」 「いや、俺は……」 女に腕を強引に掴まれた秀馬は、店の中に引きずり込まれていた。 店の中もアンティークな品物がたくさん並んでおり、なんとなく異世界に来たような錯覚を覚える。 天井からぶら下がっていたシャンデリアに背の高い秀馬は、額をぶつけていた。 「わっ! 大丈夫ですか?」 背伸びをして、秀馬の額に手を伸ばす女。 「大丈夫だ。俺に触るな」 秀馬は、冷たく女の手を払った。
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