ブローチ

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「ごめんなさい。急に触ろうとしたから驚いたんですね?」 肩をすくめる女。 「違う。驚いたんじゃ……」 言い終わらないうちに、腕を引かれて白い椅子に座らせられた。 「なんなんだ?」 「お茶をお出しします。珍しく来たお客様には、おもてなししないと」 「客じゃない。たまたま通りかかっただけだ」 「いいんです。暇だし。何かの縁ですかねーー」 そう言って、出してきたのは聞いたことのないメーカーの缶コーヒーだった。 ーーー暇なのは、お前だけだ。縁? ざんぎりと? 冗談じゃない。そんなものがあったら堪らない。ある訳がない。 じっと、缶コーヒーを見ていると女がじぃっと秀馬を見つめてきた。 「なんだ?」 「初めて会った時から思ってましたけど、すっごく綺麗な顔ですね」 女が手を伸ばして、秀馬の?に触れた。ぴとっと吸い付くみたいに女の手が止まる。 「なんなんだ、この手は?!今すぐこの手をどかせ」 触られてる頬から女の手をはがす秀馬。完全にムッとしている秀馬を見て、女は無意識に触っていたようで急にハッとした表情をみせた。 「あっ!! 私ったら! なんかすみません。ほんとにすみません! もう触りませんから」 異常に怯え慌てる態度の女を見て、秀馬はため息をついた。 「言っておくが、俺には何があっても勝手に触るな」 「は、はい! わかりました」 「ところで……あんた、ここの店長してるのか?」 「私ですか? とんでもない。店長とか長のつく器じゃないので。ここの店員で村山一子(ムラヤマイチコ)と言います。よろしく お願いします」 握手するつもりなのか両手を出してきた一子。 「何故、手を出してきた?」 「握手です。どちらの手がいいかわかりませんから…」 「残念だが、仕事以外で握手はしない主義だ」 決して手を出そうとはしない秀馬。 「え?」 大きな瞳をぱちくりさせる一子。 ーーーどうせ、次の言葉は、みんな同じだ。『変わってる』だ。 もう、変人扱いされるのには慣れている。 大抵の人は、普通と違う行動をする人を変だと決めつけるもんだから。 なのに、一子は違う言葉を発した。
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