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「了解しました」
一子は、秀馬の言うことをすぐに受け入れ、仕事のメールに返信するような答え方をしたのだ。あくまでも笑顔の一子に秀馬は面食らっていた。
「それだけか?」
「はい。他に何か言うべきですか」
ーーー変わってる。俺よりも変わってる。握手を拒否られても笑顔でいるし、返事の仕方も変わってる。この女は、相当な変わりものだ。
「いや、何でもない」
缶コーヒー1つを挟んで、気まずい空気が流れていた。
「コーヒーあんたのは?」
「あ、最後の1つなんで……それ」
秀馬は、缶コーヒーをズズッと一子の方へ押し返した。
「嫌いですか? コーヒー」
「いや……」
ーーー最後の……とか言われて、どうして俺だけ飲めるんだよ。アホか。
「そう。コーヒーが苦手だから、あんたが飲めばいい」
「え? すみません。なんか……じゃあ、いただきます」
そう言いながらも缶コーヒーを飲まない一子。
「それ、飲まないのか?」
「……はい。妹がコーヒー好きなので、お土産にしようかと……」
ーーー土産? 缶コーヒー本を。
秀馬は、なんだかしみったれた話を聞いて全身が痒くなってきていた。
シャンデリアに気をつけながら立ち上がると、首をかきながら手近に置いてあった小さな白い犬の置き物を手にした。
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