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「すいません、秀馬さん!」
走ってやってきたのは、美容師の後輩で待ち合わせ相手の所沢 歩(トコロザワ アユム)だ。
「おぅ、歩。いいところに来たな。アレ」
歩を肘で突き、顎で俯いている女を示した。
「えっ、ナンパっすか? いいですけど……なんでよりにもよって、アレなんすか?」
軟派な歩は、女の外見の良し悪しを識別する能力にたけている。一目見ただけで露骨に嫌そうな顔をした。
「アホか! なんで俺があんなざんぎり頭の女をナンパするんだ?」
馬鹿げたことを言い出す歩の頭にゲンコツを落とす。
「えっ? じゃあ、なんなんすか?」
歩はゲンコツを落とされた頭をさすりながら、不満な顔を見せた。
「あの髪型が気になって仕方ない。このままじゃあ、きっと俺は夜も眠れない」
「……出たよ。大袈裟なんだから」
子供みたいな言い草に、歩はいくらか不服そうだった。
「なんか言ったか?」
それでもギロリと睨みをきかせると、歩は慌てて首を振った。
「いえ、なんも言ってないっすよ」
「だから、あの髪型が良くてやってんのか、仕方なくアレになってしまったのかを聞いてこい」
「え?、マジっすか? 正直、そうゆーのどうでも良くないですか?」
うんざりしたような感じの言い方をする歩。そんな歩に深く刻んだ眉間のシワを指差してみせる。
「わかりましたよ。聞けばいいんでしょ。聞けば」
歩と並んで女の近くに立った。ターゲットがアレで合っているのかを確認するように歩が顔を見てくる。
だから、もう一度『アレだよ。早く聞け』と顎で示した。
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