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「これ、いくら?」
「あ、はい。ちょっと拝見」
一子が秀馬が手にしている犬の置き物の下を覗く。
「えっと、3980円です」
秀馬は、財布を出して五千円札を一枚テーブルに置いた。
「なら、5000円で」
「はい、少々お待ちください。今包みますね」
「このままでいい。ポケットに入れていく」
さっさと店を出ようとする秀馬に一子が慌てて言う。
「お釣り、お釣りがあります! 少しお待ちください、カリスマさん!」
うんざりしたように振り向いた秀馬。
「カリスマさんは、やめろ。真田だ。それと釣りはいらない」
「え、でも……」
「その釣りで、缶コーヒーでも妹に買ってやれば」
「えっ」
ドアを出ていく秀馬に大きな声がかけられていた。
「ありがとうございます! カリスマさん! 妹たちが喜びます」
ーーーだから、カリスマさんって呼ぶな。妹たち? 妹は、何人いるんだ?
まあ、関係ないけどな……。
小さな犬の置き物をポケットにすべりこませて秀馬は、狭い路地をゆっくりと歩き出す。不思議と全身の痒みが治まっていた。
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