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おいもの天ぷら
★おいものてんぷら
朝、出勤してきた秀馬は、歩が店の前で話している人影を見て立ち止まった。
ーーーあれは、なんだ?
見間違いかと、目をこすってみる。が、歩の前にいる人影は消えなかった。
近づいてみると、やはり一子だ。
「あ、カリス……じゃなかった。真田さん! おはようございます。昨日はありがとうございました。妹たちがすごく喜んでいて……」
喜んでいた顔が一瞬にして曇っていく。
「なんなんだ? 喜んだなら良かっただろ」カリカリする秀馬は、舌打ちをした。
「喜んだんですが……すみません!」
ぺこりと膝につくほどに頭を下げてきた一子。
「なんだ? 何を謝っている」
「一番下の妹は、コーヒー苦手なのでオレンジジュースを買ってしまいました。ごめんなさい。缶コーヒーって言われてたのに!」
大きな瞳をウルウルさせて謝る一子。秀馬は、一子に怖い顔して近づいていき、ついに店の外壁に追い詰めた。
後ずさりした一子の背中が壁に当たる。
「あんたな、そんなことでわざわざ来たのか」
秀馬は、ハーフコートのポケットに入れていた手を出して一子の顔の脇、店の外壁にダンッ と手をついた。
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