ざんぎり

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「あのぅ、すみません」 歩が声をかけて、肩をトントンと叩こうとしたら、女の体がぐらっと横に傾いた 「うわっ!」 横に傾いた女の体を歩の隣にいた秀馬が反射的に抱きとめる。 秀馬の腕の中で、女が瞬きをパチパチさせる。ロバが驚いて目を見開いたら、大体こんな感じだろうと思われるほどに女の瞳は大きくて潤んでいた。 「あ、ごめんなさい! 私、眠っていて」 女は急いで起き上がり、顔を真っ赤に染めて秀馬に謝った。 ーーーこのざんぎりは、さっきから眠っていたのか……。 瞬きをパチパチしながら女は、秀馬をじいっと赤い顔で見つめてくる。 「いや……」言いながら、女を抱きとめた自分の胸の辺りを見る。そして、服の表面を手でささっと何度か埃を落とすみたいにして払った。 「あ、それ……秀馬さん! 失礼ですって」 小声で歩が注意をしてきた。 「何が」 「ささっとするやつですよ」 歩が服を手で払うしぐさをしてみせる。 「仕方ないだろ。癖だ。……そんなことより、さっさと聞けよ」 眉間に皺を寄せて、急かすように歩を肘で突いた。
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