ねむりひめ

1/6
1661人が本棚に入れています
本棚に追加
/348ページ

ねむりひめ

★ねむりひめ 「秀馬くん、あそこにいるのが貴方のおかあさんよ」 千葉の海の近くにあるこじんまりとした特別養護老人ホーム「しおさい」に秀馬は、叔母の春日琴音と来ていた。 一子の勧めで、叔母に連絡した。そして、その叔母が「秀馬くんから連絡が来たら、会わせたかった」と言われ連れてこられていた。 ーーーこの世で1番会いたくなかった人。 だが、秀馬は叔母の話を聞いて会うことにしたのだ。 秀馬が小学校二年生の春、母の早苗は男を作り家を出た。 「おかあさん、いっちゃ嫌だ!」 泣き叫ぶ秀馬。 「もう、こんなしみったれた生活なんかうんざり!」 母は、怖い顔をして赤いスカートにすがりつく秀馬を振り払った。 「早苗、行かないでくれないか?」 優しい父が懇願しても母は、そんな父に『甲斐性なしな男は真っ平』とそっぽを向いた。 母が出て行ってから、絵に描いたようような強面の借金取りがやってきた。 「この店だけは……どうか勘弁してください」 父は、理容室をやっていた。秀馬は、幼い頃から店に出て父が客の髪を切っているのを楽しみに見ていた。 かつては母も手伝い、店には笑い声が絶えなかった。 なのに……。
/348ページ

最初のコメントを投稿しよう!