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女から若干離れた位置に秀馬を押しやってから、歩は急いで走り女の所へ戻る。
ーーーあんな髪でよく外出できるな。まともな人間が出来ることじゃない。
離れてからも腕組みして、なおも秀馬は女の髪型の観察を続けた。
秀馬から離れた歩は、美容室のクーポン券付きチラシをジーンズのポケットから出して渡した。
「俺、美容師なんですよ。一緒にいる人なんかカリスマ美容師って言われてて……知りませんか? 雑誌にも出たりしてるんすけど……はははっ」
頭をかく歩。
女は、歩の言っていることには関心がないようだったが、瞳はクーポンに釘付けだった。
「クーポン!」
「はい、それ持ってきてもらえると今ならカットが1000円で出来ますよ」
ニッコリと営業スマイルを見せる歩。
「1000円! それなら、いけるかも。ありがとうございます。クーポン」
チラシを握りしめて、女は立ち上がり頭をぺこぺこ下げた。
首を伸ばし様子を窺っていた秀馬は、イラつきながら痒くなってきた首の周りを指でかいた。
ーーー あいつ、うちの店のチラシ渡してるし、余計なことまでペラペラと。
秀馬は、歩の思わぬ行動に頭にきて舌打ちまでしていた。
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