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戻ってきた歩の頭に、再びゲンコツをお見舞いしてやる。
「お前、うちのクーポン渡したのか? あのざんぎり頭に」
キレ気味な秀馬のご機嫌を取ろうと、秀馬の服についたゴミを手で払うような素振りをする歩。
「まあまあ、お店のお客様が増えていいじゃないっすか。俺は、店の売り上げに少しでも貢献しようと……」
「アホ! あんな女が出入りしたら店の品格が下がる」
カリスマ美容師、真田秀馬の経営する美容室「aube(オーブ)」は、多くのタレントやモデルが通う店として雑誌に何度も登場する有名店だ。
今や直営店、グループ加盟店合わせて、全国に60店舗もあり、まさにウナギ上りの経営状態にある。
ーーーうちの店は、オシャレな客層で売ってるんだ。
「でも、どうせカットするのは秀馬さんじゃないんだし、 問題ないっすよ。あの頭で来るのは最初だけだから」
ーーーその最初が問題だ。あのざんぎり頭が店に入ってくるのを想像すると全身がむず痒くなってくる。
誰がカットするとかは、この際、問題じゃない。だが、既に渡してしまったクーポンを今更返せとは言えないだろう。
……ここは、ぐっと我慢だ。
秀馬は、気分を変えるために首を左右に倒して関節を鳴らしたあと、大きく首をまわした。
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