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タツオは迷っていた。なによりも菱川班にいるスパイの件が心労の元だ。こんなときジョージがいてくれたら、なんでも相談できたのだが。これからの2週間、そして万が一決戦当日に破壊活動が発生した場合の安全策として、誰かひとりだけは腹心の仲間をつくっておかなければならないだろう。自分になにかが起きたときに作戦を引き継ぎ、スパイにも対処してもらわなければならない。
朝の士官食堂へと移動していく同じチームの6人の背中を順番に見つめた。このなかで氾=エウロペのスパイである可能性がもっとも低い者は誰だろう。こたえはひとつしかなかった。タツオと同じ近衛四家の出身で、幼いころからともに育ち、日乃元と進駐軍への愛を疑うことのできない者。すべての条件を満たす者が、たったひとり。タツオは思い切って声をかけた。
「サイコ、ちょっと話がある。いいかな」
東園寺家の跡とりの少女が振り返ると、ショートボブの黒髪がふわりと丸く広がった。瞳の奥には2週間後に迫った本土防衛決戦への固い決意がのぞいていた。
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