光芒

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 でも……それにしても、いやな感じだ。喋ってる彼女たちも、黙ってる僕も、いやな感じがする。なので、このまま何事もないまま、両者ともに坂を登りきりたいと僕は思っていた。  その願いは、幸いにも叶ってくれた。不幸中の幸いという言葉が妙にしっくりくる、そういう朝だった。  僕は、教室ではいつも独りでいる。  高校生になりたてで気合の入っていた同級生たちは、片っ端からクラスの色んな人に話しかけたりした。話しかけられたら僕も、なけなしの社交性を見せて対応した。……でもやっぱり、無理やり取り繕ったところで、無理やりは無理やり。結局僕は、早くも孤立しがちな状況にあるわけである。まぁ、しかし、こうなる前から、すでに気持ちは独りだった。だから、実際の立場がどうかということは、本当はちょっとした差異に過ぎないのだけど……。  朝のHRで先生が喋るのを聞きながら、僕は窓越しに、ぼんやりとグラウンドの芝の緑を眺めた。そして朝から一言も喋らないまま、いつも通り時は流れていくのであった。  三時間目が始まってもまだ空は曇っていた。そんな空の下で、僕は体操服を着て立っている。そういえばこの体操服って、今年から新しくなったやつなんだって。  僕の周りには、クラスメイトの男子が立ち並んでいる。そして、グラウンドの端……校舎側の方に目をやれば、そこにはやけにボロい長机とベンチ……「得点」を記録するためのものだ……が並び、女子たちの姿がある。  先週の体力運動能力テスト……散々な結果だった……その、最後の一種目である持久走を、今日僕らは行うのだ。  いやだなぁ。  僕は曇り空を見上げた。……あぁ、いけない、こんな時だってのに、急に昔のことが頭をよぎり始めやがる。そういえばこんな日だっけ。そういえば、あの日、あの出会いの日も、こんな天気だったっけかなぁ。  ふいに、僕の周りの男子が一斉に走り出した。しまった、ぼーっとしていて号令を聞きそびれたようだ。僕も、みんなの後を追うように走り出した。
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