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ところで僕って未だに、公園に行けばあの子がいるような気がしてるんだぜ。
走った。そう、走ったし……走り切った。足が棒きれのようだ。汗が止まらない。ふらふらと、長机のあるほうに向かう。すると僕のペアの女子が、僕に記録用紙を手渡した。その時に、彼女は記録を言ってくれたと思うのだけど、疲弊していた僕はそれを聞いたという素振りを見せただけで、実際には聞いていなかったし、記録用紙に書かれた記録に目を通そうともしなかった。ただ足の痛みや、体の熱さや、吐き気だけが確かだった。おぼつかない足取りで、僕はウォーターサーバーのある方へと歩いていった。振り向いてグラウンドの方を見れば、まだ走っている人が一人いた。彼が最後の一人か。みんなが声援を送っている。
急に、激しい目眩が僕を襲った。そして次に、体が支えを失ったように、沈んでいくような感覚に見舞われる。
それからのこと、実はよく覚えていない。気づけば僕は、保健室のベッドで眠っていた。
どうやら、持久走を走り終えた僕は、倒れてしまったということらしかった。……ああ、なんだってこんなになるまで、頑張ったりしたんだろう。馬鹿馬鹿しいじゃないか。どうせ他の種目だって、散々な結果だったじゃあないか。
もしかして、僕は心のどこかで、「最後の独り」になるのを拒んだのだろうか。だとしたら本当の本当に馬鹿馬鹿しい。いよいよもって、自分に愛想が尽きるというやつだ。
あの子みたいにはいかないな。
結局僕っていう男は、自分が独りであることを、当然のこと、些細なことだと言いながらも、実際には孤立することが怖いのだ。堂々と、たった独りでも自分の道を走れるような度胸は無いのである。
そうだ。その度胸があれば、悩みはしない。自分を曲げて周りに合わせて生きていく度胸も、自分の道をひた走る度胸も、ありはしないのだから、悩むのだ。自分が可愛いのが僕なんだ。体面を気にする臆病さが僕なんだ。
ふぅ、と一息ついた。僕はゆっくり目を閉じた。
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