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彼は保健室のドアを開けて出ていった。僕は慌てて飛び起きてドアまで行き、廊下を歩く彼の背中を見た。どこか寂しそうな背中。でも、堂々とした歩き方だった。
僕は、先生に尋ねた。
「彼は?」
先生は、微笑んで答えた。
「2Eの、木場って子。保健室の常連でね。知り合い?」
へぇ、じゃあ一つ年上だったのか。僕は「ええ、たぶん」と、小さく頷いた。
……そして先生は、独り言を言うように、呟くのだ。
「じゃあ、彼の言ってた昔の友だちって、君かなぁ……」
それを聞いて、僕の顔は思わずほころんだ。ああ……こんなことって、あるのか。しかもあの子は僕を覚えていたって。喜びを隠せない僕に、先生は言った。
「授業出るんだよね、はい、これ」
先生は僕に歩み寄り、小さな紙切れを渡した。僕の体温だとか、保健室での処置だとかが書かれた紙だった。
「それ、担任の先生に渡してね」
「……はい」
僕は、保健室のドアに手をかける。
「……やっぱり僕も早退しようかな」
「はい?」
「冗談。……冗談です」
僕は「ありがとうございました」と言って保健室を出た。
思えば、僕は考え過ぎていたのかもしれない。彼は……あの子は、僕と再会した時も、ただ微笑むだけだった。あまり難しいことを考えているという風でもなく、やっぱり彼は飄々としてそこにいた。
なんだか彼のああいう姿を久しぶりに見て、一気に肩の荷が下りた気がしたのは何故だろうな。
木場って言ったな。
僕みたいな奴は、きっといつまでも、頭でっかちな考えに囚われていくのは避けられないかもしれない。
でも、彼と一緒なら、少しは変われることだってあるんじゃないかって、僕にはそう思えていたのである。もちろんそうなった時は、僕と彼とは「二人」ではなく、「独りと独り」だ。だからこそ、あの時だって僕らは一緒にいられたんだと思う。
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