私が死んだのは

3/7
前へ
/7ページ
次へ
 私の名前はご存じですわよね?  はい、松田恭子。歳は・・・・・・あらあら、こんなおばあちゃんに気を遣わないでいいんですよ。  八十二歳。ええ、死因は心筋梗塞ですよ。  ぽっくりと亡くなってしまいましたわ。ふふ。  ・・・・・・心残りは、そりゃあありますわ。  まだまだこれからだと思っていたんですもの。  子供達も心配だけど、それ以上に。  ほら、見えます?  あの縁側でぼんやりしているのが、私のつれあいですの。  多分、私があの世に行けないのは、あの人が心配だからでしょうね。  ほら、あの人ったらお茶もろくに淹れられないんですよ。  娘が一緒に暮らそうって誘ってくれているのに、首を振って。  でも、庭の桜の木だけはこまめに世話をしてくれるんです。  私が嫁いだ時に、実家から植え替えた木だからと言って。  ・・・・・・来年からはもう一緒に桜を見れないのね。  あの人が酔ってしまったら、誰が介抱してくれるのかしら。   ねえ、使者さん。  ・・・・・・もう少しだけ、こちらに居させて下さい。  せめてあの人の今後が決まるまで。  
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加