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私の名前はご存じですわよね?
はい、松田恭子。歳は・・・・・・あらあら、こんなおばあちゃんに気を遣わないでいいんですよ。
八十二歳。ええ、死因は心筋梗塞ですよ。
ぽっくりと亡くなってしまいましたわ。ふふ。
・・・・・・心残りは、そりゃあありますわ。
まだまだこれからだと思っていたんですもの。
子供達も心配だけど、それ以上に。
ほら、見えます?
あの縁側でぼんやりしているのが、私のつれあいですの。
多分、私があの世に行けないのは、あの人が心配だからでしょうね。
ほら、あの人ったらお茶もろくに淹れられないんですよ。
娘が一緒に暮らそうって誘ってくれているのに、首を振って。
でも、庭の桜の木だけはこまめに世話をしてくれるんです。
私が嫁いだ時に、実家から植え替えた木だからと言って。
・・・・・・来年からはもう一緒に桜を見れないのね。
あの人が酔ってしまったら、誰が介抱してくれるのかしら。
ねえ、使者さん。
・・・・・・もう少しだけ、こちらに居させて下さい。
せめてあの人の今後が決まるまで。
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