死期を悟る

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つい1ヶ月前まで、私は死について深く考えたことがなかった。もちろん、死は日常生活のいたるところに存在している。テレビドラマ、小説、アニメでは死を扱った物語に溢れているからだ。しかし、そんな想像の中の死ではなく、本当の死だ。 健康的に暮らしていれば、年の瀬にはクリスマスがあり年が明ければ正月がくる。もう何度も経験してきたわけで、またかという思いも確かにある。しかし、それは健康な肉体があるからだ。 ある日、デスクワークをしていると、総務部の若い女の子が私に封筒を持ってきた。入社して2、3年、少し仕事に慣れて来た頃で、私に向かって屈託のない笑みを浮かべてくれた。 「なんだ、健康診断の結果かぁ」 「お大事に」 何気なく耳にした彼女の言葉に、「そうだね」と軽い相づちで応えた。 今にして思えば、彼女は封筒の中身が再検査を伝えるものだと知っていたのだろう。そして、私はかなり無理をして再検査を受けなければいけなかった。 入社して25年、転職を考えたこともある。しかし、なんとなく居心地がよくて、もうじき50歳を迎える。定年まであと何年働けるのか考えることも増えた。 そんな矢先、私は病院のベッドで過ごしている。毎日が単調で、妻や子供が時おり顔を見せるが、決まって日常的な話題ばかりを選んで話す。 「別に大学に進学しなくてもいいと思うの」 娘の言葉に思わず「おいおい、そんなに簡単に受験をやめるのか?」といってみる。 うつむく娘、思い出したように動き出す妻、何かを隠しているのが鈍感な私にも分かる。 「なぁ、オレは死ぬのか?」 「何を言うの!」 「そうよ。パパ、頑張って治そうよ」 「嗚呼……」
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