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小沢の夫の場合1
「そう言えば、私が一番自我が保ててるって言ったけど、本当?」
「そうだな。お前が一番マトモで仕事行く時とか大体の時はお前だな。なんで今更? 知りたくなった?」
「いや、私が入院して人格が減ったとして、私も消えちゃうかもって思ったの。私は自分が主人格だと思い込んでるけど、他の誰かの可能性もあるでしょ?」
今は小沢の人格が出ている。俺の前だと長時間姿を見せるのは本人曰く、小沢だった。
俺の妻は旧姓、小澤幸代。恐らく自分で名前を書く時は簡単な沢で小沢と書いていたのだろう。その名残で小沢というキャラクターが誕生したと俺は思っている。
「なるほどね。まあ、俺の前で現れないパンとボクはないだろうな。主婦かサッちゃんかお前だと思うが、お前以外だとキツイかも」
「それさ、喜んで良いのかよく分からないよ」
少しの沈黙が流れる。
「ほんとはさ、友樹……少し助長してたでしょ。みんなが使う端末それぞれ変えたり、ブラウザ変えさせたり」
「いや、パンとボクは知らないよ。たまたまにしては変だと俺は思ってた。だから君が多重人格者だっていうのも最初は疑ってた」
多重人格者で5人のキャラクターがいることは、初めは俺も相容れない物があった。
結婚してしばらくした頃、病状が落ち着いてきて外へ気持ちが向くようになった。俺は妻に掲示板サイトのことを教えた。どうやら5人は他人として知り合ったようだ。
どうなるか心配だったが、妻の精神状態はだいぶ落ち着いてきた。俺もすっかり相手をすることに慣れていた。
「そうかもしれない。最初は……いや、分からない。正直、本当に他人格の時の記憶って無いの」
幸代は辛そうな表情をして言った。
「俺はどの人格でもお前はお前だと思ってるから。死ぬような事をする必要はないんだ。今のままでも俺は良いよ」
「ありがとう。でも私は今のままは辛いの」
幸代からしたら自分が死ぬかもしれないけど(または誰も消えない可能性もある)将来のために変わろうとしている。だから俺が出来ることはただ見守るだけだった。――誰が帰ってきても真実を話して説得をして夫婦としてやらなければならないプレッシャーを感じながら。
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