サチの場合1

1/1
前へ
/13ページ
次へ

サチの場合1

「友ちゃーーーーん! 聞いて聞いてーー!」  サッちゃんは大好きな旦那のことを友ちゃんと呼ぶ。サッちゃんは自分のことをサッちゃんと呼ぶ。 「お。いらっしゃい、サッちゃん」  友ちゃんはサッちゃんが話しかけるとすぐにいらっしゃいと言う。ユーモアなのだろうか?  少し分からないけれど、言い続けられているので今では普通にスルーしている。そんなことはどうでもいい。サッちゃんは友ちゃんが大好きで話がしたくて仕方ないのだ。 「友ちゃん、友達がねショートムービー作ろうって言い出して、サッちゃんに絵を描いてって言うんだ。でもね、考えてみて。どんだけサッちゃんの負担になると思う? 言い出した人はディレクションしたーいって気軽なもんなの」 「へえ。俺はよく分からないけど、相当の枚数描かないとなんじゃないの?」 「そうだと思う。サッちゃんもよく分かってないけど、1枚や2枚や10枚や20枚じゃないと思うんだよね。パラパラ漫画だってすっごい数描くもんね」  そう言ってキョロキョロすると友ちゃんが察してiphoneを指さしてくれた。  サッちゃんはいつも自分の所有物をどこに置いたか忘れてしまうが、友ちゃんがすぐに気がついてくれる。「本当に大好きだ」と心で言って友ちゃんにキスをした。  そうだ、きっとサッちゃん以外でも大変な人がいるかもしれない。そして嫌だって言いにくいかもしれない。そう思ってiphoneで日課のようにいつものサイトを開いた。 「どうしたらいいんだろ。サッちゃんて機械苦手だからiphoneはギリギリ使えるけどパソコンとか無理だし。普段絵を描くときも紙に描いてるし、やっぱりショートムービーなんて無理。誰に連絡とったら賛同してくれるんだろう?」 「え、サッちゃんもしかして電話番号教えようとしてる? それは駄目だと思うな」 「え、何で分かったの? やっぱり電話は個人情報だからまずいかな」  みんなで決めたわけではなかったが個人的に連絡は取ったことがない。恐らく他の人もそのはずで、5人で秘密なくやってきた。  誰一人として会ったことはないし、写真など自分の容姿を見せることもしなかった。そんなこと必要ではないと思っていたからだ。なので明日ニュースで誰かが出ていても誰も気付くことができないだろうと思った。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加