Episode1:神隠し

3/18
158人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
 國廣(くにひろ)神社は博多川沿いにある、ビルの隙間に建つ小さな神社だ。参道は人一人分しかない狭いところに構える朱い鳥居の奥には倉稲魂命(うかのみたまのみこと)が祀られる社殿がある。 「あれ? ウカちゃん、おらんね」  言ってみると、清水原も気がついたらしく「ほんとやね」と呟いた。  ウカちゃんは言わずもがな、國廣神社に祀られる倉稲魂命のことである。清水原は首筋を掻きながら不思議そうに言った。 「珍しいな。どこ行ったっちゃろーね」 「さぁ? また酒でも飲んで川に引っかかってんじゃないの?」 「やろうねぇ……あいつ、ほんと酒癖わりぃから」  商売繁盛を掲げる中洲一の守り神がそんなにだらしなくていいのか。 「つっても、まさかウカちゃんの代行とは思わなんだ……あいつ、社殿(おうち)大好きっ子やん? 家出とかなかったのに」  清水原は訝るように唸った。  確かに不思議な話である。いや、神様と知り合いであることこそが不思議なんだけれど。ただ、清水原が言うには「普通やろ」とのことで。  日本全国には八百万(やおよろず)の神様がいるわけだから日常的にその辺をふらついているのはしょっちゅうらしい。ただ、気が付かないだけ。ただ、気がついている人は神様を大事にしている。この博多の町にもあらゆる神様と御神体はたくさん存在するのだ。 「ウカちゃん探しはせんでいーの?」     
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!