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【東中洲】
ジリリン! とけたたましい音で目が覚めた。夢うつつの頭の中が一掃されていく感覚。あたしは飛び起きると、今じゃ絶滅危惧種の黒電話を手に取った。
「はぁい、もしもしぃ。代行屋です」
寝起きゆえに間延びした受け方だが許してほしい。
「……ん? あぁ、なんだ。吉塚さん……ん? ちょっと待ってね。おーい、清水原ー」
物であふれた雑多な事務所を見回すと、本の山がのっそりと起き上がった。
「なん?」
目元まで深くかぶったニットキャップを更に深くかぶり直しながら、本の山から出てくる男――清水原があくび交じりにやって来る。黒のTシャツと汚れたカーゴパンツ。洒落っ気ないことこの上ない。
あたしもあくびを噛みながら受話口を彼に差し向けた。
「川端商店街の吉塚さん。代行頼みたいって」
「こんな明け方にかい……」
のんびりと言い、彼は受話器を握った。
「はいはい、変わりました、清水原です。ご用件をどーぞ」
そう言いながら受話器を肩に乗せて手のひらにメモする。
サラリと走るペン先は、やがて『クニヒロ神社、代行』と文字を認めた。
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