3LDKの監視神

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 努力をせずに、暮らしていきたい。大富豪とまでは言わないから、安定した生活が欲しい──。  24歳、彼氏いない歴8年のわたしは、そんな他力本願な望みを抱えて一通の求人メールを受け取った。どうせまた期間限定のコールセンタースタッフか何かの募集だろう。いつの時代も人手不足は、コミュニケーション力の試される仕事ばかりだ。 「……ん?」  奇妙なことに、差出人欄のアドレスは文字化けしていた。てっきりいつもの派遣会社かと、思ったの、だけれど──。 『件名:【未経験OK】現世日本エリア監視業務の募集  本文:日本に住む人たちを監視するだけの簡単な業務です!     イレギュラーな対応は一切なし!マニュアル通りにお仕事してもらうだけ。     家賃、食費、水道光熱費……業務期間中のあなたの生活は全額こちらで負担します。     あなたも神様になってみませんか?』 「…………は? 神様?」  突拍子もないメールを受け取り、しばらくスマホを握ったまま固まった。──なに? 神様? もしかしたらわたしが知らないだけで、エロい仕事や法に触れる仕事を神様と呼ぶのだろうか? 一体どんな迷惑メールだ、これは?  思い浮かぶことはたくさんあるのに、気づけばわたしはメール画面の返信ボタンをタップしていた。 「お話、ありがとう、ござい、ます。詳しいお話を、伺いたく……」  神様が何だかわからないけれど、マニュアル通りの監視業務はとても気になった。何も考えない仕事がしたい。ストレスは嫌だ。わたしはなるべく努力をせずに、安定した生活を送りたいのだ。  ちょうど深夜ドラマを観ながらチューハイを飲んでいたせいもあって、そのときのわたしは正気じゃなかった。  今思えばうさんくさいことこの上ない求人メールに、哀れにも返信を送ってしまったわたしは、その翌週の土曜日に駅前の喫茶店で待ち合わせをすることになった──。
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