夕日が綺麗だったから

1/1
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

夕日が綺麗だったから

夕日が綺麗だったから。 だから、私は死んだのだ。 毎日上司に怒られているからじゃない。 毎日残業で朝帰りしているからじゃない。 やりたくもない仕事を延々と続けているからじゃない。 彼氏に別れを告げられたからじゃない。 ろくに睡眠もとれなくて、 食事も喉を通らなくて、 眩暈が酷くて、 吐き気がして、 何もなくても涙が出るけど、 それが理由なんかじゃない。 少し休憩をしようと思って、 缶コーヒーを一本買って、 屋上に出た。 そうしたら、ビルの隙間から見える夕日がとても綺麗だったのだ。 雲の隙間から差し込む光がとても美しかったのだ。 飲み干した缶を屋上の床に置いて、 屋上の柵を上って、 迷わずに手を離したのはついさっき。 今が朝だったなら、朝日の中に飛び込んだだろうか。 否。 今が夜だったなら、夜景の中に飛び込んだだろうか。 否。 答えは、否だ。 だって、夕日が綺麗だったから、 私はただ飛び込みたかっただけなのだから。 私は夕日の中に飛び込んだけれど、 夕日は私を受け止めてはくれなかった。 夕日の中に飛び込んだ私は、 ただ屋上から飛び降りただけの人間となって、 地面に叩きつけられて死んだだけだった。 勘違いしないでほしい。 私は別に死にたかったわけじゃない。 死にたいと思ったことなんて一度も無い。 夕日が綺麗だったから。 だから、私は死んだのだ。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!