私はすべてを失った。

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 彼女を(なぶ)っていた町人が此方に近づいてくるのを、ただ眺める。 何か言っているのか、口が動いているのは分かるがその言葉を声と認識できない。  町人の声で私の事に気づいたのか、彼女の濡れた瞳がこちらを向いた。 途端に音が戻って来たが、町人の声は相変わらず雑音としか聞こえない。  彼女が泣いている。  私なんかの事を庇ってくれている。だからこそ、なぜ彼女がこんな目にあっているのかを正しく理解した。  私は正しく化け物だと言うのに、彼女は否定したのだ。 この町で一番近くに居たのだから、当の昔に私の異常性には気づいていただろうに。  なんて、…なんて優しい人なのだろう。
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