私はすべてを失った。

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 居を移してから一月程だっただろうか。 なぜか私と彼女は一緒にお茶を飲む位の仲になっていた。  元々は近くに居られるだけで良かったのだ。知り合う心算(つもり)も無く。 ただ彼女と同じ町で、時折町中ですれ違うくらいの距離感で居る予定だった。 どうしたって私は異質で、異常で、この町にとっては異物でしかないのだから。深い仲になどなったところで、いつかは離れなければならないのだ。そんな事をしては自身が傷付くだけだと分かっていた。  切欠は風で飛ばされた彼女の帽子を私が受け止めた事だった。 強い風が吹いたかと思うと、顔に何かが直撃したのだ。次いで慌てる女性の声が聞こえて、現状を理解するのと同時に二度目の衝撃が身を襲った。  初めて正面から見た彼女はとても美しかった。遠目からは分からなかったが目元に一つほくろがあって、幼さの残る顔にそれが色香をのせていた。声も、綺麗だった。鈴の鳴る様な、という表現は誇張ではない。
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