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急に言葉が続かなくなり、奏助は一瞬黙り込んだ。
自分の中に生まれた疑惑は消えておらず、いっそ単刀直入に聞いてみようかと思ったが、あっさりと肯定されたらそれこそ立ち直れなくなりそうで、なかなか勇気が出ない。
(今、お前一人?)
(もしかして、誰か部屋にいる?)
ただそれだけの台詞がどうしても出て来なくて、奏助は「じゃあ、また会社にでも寄るわ。風邪、お大事に」と言った。
「ああ、じゃあな」
そこで通話は終わった。
そのままビルの壁に凭れ、奏助は別の番号を表示させ、通話ボタンを押すか否か迷った。
【花衣ちゃん】と書かれた番号に電話した時、そこから先に何が待ち受けているのか想像出来なかった。
花衣が二ヶ月前からずっと、一砥の家の家政婦をしているのは知っている。
午前中は一砥の家で掃除洗濯などの家事をして、それから実家のランチタイムを手伝い、LuZでモデルのレッスンを受け、夕方から学校へ行き……。
そういう生活を続けている花衣を、奏助は純粋に応援していた。
何度か食堂でランチタイムに会ったが、向こうは接客で忙しくろくに会話は出来ず、週末も学校の課題やコンクールに出す作品作りで大変そうで、デートに誘うチャンスもなかった。
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