第四話「トライアングル」

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 そして自分と彼女の距離は二ヶ月前と変わらないまま、しかし一砥の方は毎日彼女と会い、彼女との距離を縮めていった。  今、二人の関係が二ヶ月前からどう変化したのか、奏助は知らない。  いつもどんな会話を交わし、どんなやり取りをしているのか、見ることも聞くことも出来ない。  LuZでの苛め騒動については、亜利紗や紫苑から聞いていた。  一砥の愛人だと誤解され、私物を汚されるなどの嫌がらせを受けていた花衣に、亜利紗も紫苑も同情し、一砥や他のスタッフと協力して彼女を守っているのだと。  その話を聞いた時は、直接手助け出来ない自分がただ歯がゆく、けれど花衣に味方がいてくれることを知って、安心もした。  亜利紗とは特に気が合うようで、姉妹のように仲が良いと聞いて、それも何だか嬉しかった。  だがどれも皆、他人から聞かされてばかりの情報で、花衣の“今”を知らない自分に気づき、奏助は改めてショックを受けた。 (こんなことなら迷惑がられるのを恐れずに、もっと彼女に会いに行くべきだった。会うのが無理でも、毎日でも電話すべきだった……)  それをして今どうなっていたかは分からないが、少なくともこんな、感情の持って行き場のない思いを抱かずには済んだはずだ。  奏助はもう一度、手の中のスマホを見つめた。     
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