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どうして私たちが耳長達との命の奪い合いを演じなくてはならないのか、思っても見るが、一回の兵士である私には見当もつかなかった。考えてみようとも思わなかっただけかもしれないが、それはどこかの狂った国王が家臣たちの頸を次々にはねただとか、貴族の変態共が幼い少女を慰み者としていただとか。私にとっては関係のない些末なことであって。だからどうした、その一言で解決してしまうような、考えても仕方のないものだったのだと思う。
そんな考えてもいないことに一々思考の時間をさく必要はない。大切なことは、今この瞬間に彼らをどれほど殺すことができるか。それ以上のものは私のこの空っぽの脳みその中にはない。
今だって死体となった同僚を盾にして魔法の雨を掻い潜りながら、耳長(エルフ)の青年の胸を剣で貫いているが、そこに罪悪感に打ちひしがれる自分はいない。今日殺した耳長一つ。私の脳みそが勝手にカウントするが、終わってみればすべて忘れている。せいぜい、それだけだ。
剣を引き抜いて、味方の肉塊を放り投げて、次なる獲物へと私は斬りかかる。上段から振り下ろす私の剣を、耳長は自分の手に握っている杖で受け止めた。
耳長の構える杖と私の剣がかち合い、鍔迫り合う。単なる木の枝にしか見えない杖と鋼の剣が鍔迫り合えるのは、彼らが杖に魔法をかけているからに他ならない。魔法を施された彼らの杖は鋼鉄を貫く剣となり、身を守る盾となる。
私は力任せに杖をかちあげ、耳長の左足めがけて剣を振り下ろす。柔らかな肉と、骨を寸断する感触を感じながら私の視界は赤に染まっていった。
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