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リビングテーブルで、村上はひとり待ち続けていた。秒針が時を刻む音がやけにおおきく聞こえる程、静まり返った部屋。八雲は今日帰らないのだろうか。やはり、連絡先の交換位しておくべきだ。そう何度も悔やみながら、それでも村上は待った。
そして深夜一時を回った頃、漸く八雲は帰宅した。
「ただいま」
おかえりと返す村上を見もせず、スーツの上着を素早く腕から抜きながら、八雲は首筋の汗を拭う。今日も相変わらずの熱帯夜。ワイシャツまで脱ぎ捨て、素肌で冷気を感じるように上裸で歩き回る八雲の背中を眺めながら、村上は思わず溜息を吐いた。本当に、どうしたらこうも美しい筋肉を侍らせる事が出来るのか。同じ男としての敗北感はあれど、骨格的に村上には到底無理なスタイルだ。
「珍しい。こんな時間に起きているなんて」
思わず見惚れていた村上に、八雲は不思議そうに問い掛ける。慌てて視線を逸らし、村上は意味もなく頷いた。
「シキが熱を出して、今入院させている」
「熱出して入院って……堺さんの所に行ったの」
「メモの病院だ」
堺と言う名に覚えがなく、首を振る村上に、八雲はあの闇医者が堺と言う名前だと教えてくれた。
「それで、シキは」
「衰弱しているから、暫く入院させた方が良いと。だがやはり精神的な面が心配だから、八雲と相談して決める事になった」
「そうなんだ」
心底心配そうに眉尻を下げていた八雲はそれで安心したのか、漸くティーシャツを羽織りソファに腰を下ろした。
「堺さんが見てくれるなら、心配いらない。暫く入院させよう」
「分かった」
少し心配であったが、八雲がそう言うのなら、それが一番なのだろう。
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