音連れ~君と僕の音ズレ~

11/18
前へ
/18ページ
次へ
 11年後。  真守は作業服のボタンを緩め、真っ暗な中帰宅していた。仕事は工場で誰でもできる軽作業をやっている。職人とかそういうカッコいいものでもない派遣のアルバイトだ。人生ついていないと思う事もある。でも、 「ただいま」 真守がマンションの扉を開けて帰宅すると、 「おかえり」 中からそう声が聞こえ玄関まで小走りで来るのは、爽子とその手に抱かれた赤ん坊。真守と爽子の子供だ。  10年間交際して1年前に結婚した。それは真守の夢が叶ったのだ。でもそんなに喜ばしいものではない。現実は子供ができたから仕方がなく。 「ハァー」 175,432円。今月の真守の手取りだ。給与明細を見る度にため息が漏れる。でも爽子は真守がそう落ち込むといつも、 「大丈夫よ。私ももう少ししたら働きに行くから。もう少しの辛抱よ」 と励ましてくれたのである。  真守は爽子の愛妻弁当を食べながら幸せに微笑んだ。 「愛妻弁当かぁ~いいなぁ~」 同僚のおっさん連中が真守の横に座りそう羨ましがっていた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加