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11年後。
真守は作業服のボタンを緩め、真っ暗な中帰宅していた。仕事は工場で誰でもできる軽作業をやっている。職人とかそういうカッコいいものでもない派遣のアルバイトだ。人生ついていないと思う事もある。でも、
「ただいま」
真守がマンションの扉を開けて帰宅すると、
「おかえり」
中からそう声が聞こえ玄関まで小走りで来るのは、爽子とその手に抱かれた赤ん坊。真守と爽子の子供だ。
10年間交際して1年前に結婚した。それは真守の夢が叶ったのだ。でもそんなに喜ばしいものではない。現実は子供ができたから仕方がなく。
「ハァー」
175,432円。今月の真守の手取りだ。給与明細を見る度にため息が漏れる。でも爽子は真守がそう落ち込むといつも、
「大丈夫よ。私ももう少ししたら働きに行くから。もう少しの辛抱よ」
と励ましてくれたのである。
真守は爽子の愛妻弁当を食べながら幸せに微笑んだ。
「愛妻弁当かぁ~いいなぁ~」
同僚のおっさん連中が真守の横に座りそう羨ましがっていた。
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