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駅に近づくと、車のエンジン音や電車の音、踏切の音に雑踏がシンクロして、その中に歌声が聞こえた。
そんな歌に酔いしれるように聞こえる方向に吸い寄せられて行くと、爽子がそこにいた。駅のモニュメントの前に胡坐をかいてギターを弾いて歌っていた。そんな人が土足で歩いている所に腰を下ろしている爽子は、いつもの可憐なイメージとは違っていた。
その時だった。
「姉ちゃん。歌うまいねぇ~。よかったら僕たちとカラオケでも行かない? 」
3人の不良に絡まれていた。助けないと、でもビビりな真守はガタガタ震える事しかできなかった。
「いいだろう! 」
「いやぁー」
助けないとヤバい。無理矢理連れて行かれてしまう。勇気を出して、
「お・・」
「やめろぉ! 」
真守が助けようと出て行こうとしたら、違う人が助けに入って来た。その人はあの雨の日に傘を貸していた矢島だった。
「てめぇ! 女の前でカッコつけてんじゃねーよぉ! 」
3人の不良は矢島を囲み、殴りかかった。
ドーン
「うわぁ! 」
しかし倒れたのは不良の方だった。他の2人も次々と倒していた。
「お・・覚えてやがれぇ! 」
不良たちは肩を組んで、支えあいながら逃げて行った。
「あ・・ありがとう」
爽子は矢島に礼を言っていた。
「いや、いいよ別に。でもいい曲だなぁ~」
「ホント! ありがとう」
「メジャーセブンスとか使うのいいよねぇ~」
「そうなの! メジャーセブンスとかすごくオシャレでしょう! 」
そんな話をしていた。残念ながら真守には何を話しているのか全く分からない。それに助けに行くこともできない。だから真守は、爽子に関わる事は不可能なのだと確信してしまった瞬間だった。
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