失恋なんかしてないくせに

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失恋なんかしてないくせに

 自分のことは自分が一番よく分かっているつもりだった。他ならぬ私のことなのだから。  生まれてこのかた、恋なんてしたことなかった。  もちろん恋に対しての憧れはある。一緒に登下校したり、ショッピングしたり、映画を見たり。自分が好きな人と一緒にいられるだけでどれだけ幸せだろう。友達と恋バナをするたびに未来の彼氏にときめいていた。  好きな人ができるってどんな感じなの?  彼氏が出来た友達に聞いてみたことがある。だいたい返ってくる答えは似たり寄ったり。いわく、その人の顔を見るとぎゅっと胸が苦しくなって、お話しできただけでその日一日ハッピーで、毎日が楽しくなる。恋をするということはそういうことらしい。ずいぶん曖昧な感覚だけど、当時はその曖昧さが心地よかった。友達の表情がこれまでと比べ物にならないほど、生き生きしていて、それを微笑ましく眺めているだけで私は満足だった。  恋をすれば、私も楽しい学校生活を送ることが出来る。もしその時は全力で恋を楽しもう。今はまだ出会いがないだけ。そう遠くない未来、白馬の王子様が現れて私の初めてを奪い去ってくれるわ。  何がきっかけでそういう話題になったか覚えてないけど、私は確かにそのような話を彼にした。彼は私の話の節々に適当に相槌を入れながら、最後はケラケラと笑いながらこう言った。  そんな勝ち目のない恋はやめておけ。そんないい男がお前になびくはずがない。男はごまんといるのだから、身の丈にあったものを選ぶほうが後々が楽でいい。  それもそうだと私も笑った。  その後も、しばらく二人でおしゃべりしていた気がするけど、どれもとりとめのない内容でまったく覚えてない。彼の過去の恋愛話とか、好きなタイプの女の子はどんな子なのか。気になる人がいるとか。二人で恋愛話に花を咲かした  こんな宙ぶらりんの気持ちになるんだったら、ちゃんと聞いておけばよかった。
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