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その翌日、仙之助が店に来た。
彼に漏らした「龍を捕まえるらしい」という言葉が結局どのように作用したのか、雛菊は気が気でなかった。
「でかしたぞ雛菊」
仙之助は雛菊の肩を抱くと、子供の頭を撫でるようによしよし、と雛菊の頭を撫でた。
「何がですか?」雛菊は一応とぼけてみた。
「この前の『龍を捕まえる』って話さ。やつら、生け捕りにしていろいろ吐かせるつもりだったようだが、我が薩摩の精鋭部隊が先回りして斬ってやった。どの道あの男ももう使い道がないどころか、このまま泳がせていたら危ないからな。それで、下手人の汚名をあいつらに着せてやった」
得意気に言う仙之助を見て、雛菊は胃袋に鉛が落ちてくるような感覚に襲われた。
正太郎の顔が、脳裏に浮かんで消えない。
しかし、雛菊は、それならばと仙之助を見つめた。
「それなら、身請けしてくれるのですか?」
「ああ、準備をするよ」
「いつになるの?」
「なあ、雛菊」
仙之助は雛菊の頬を両手で包んだ。
「こういうのはどうだ?今お前を身請けしたら俺の妻にする。だが、もうひと仕事してくれたら、お前を自由にしてやる」
「自由…?」
「そうだ。どこへ行ってもいい。惚れた男のところでも、どこへでも」
そんなうまい話があるだろうか、と雛菊は思った。
それでも、もし騙されているとしても、騙されてみようと思った。
雛菊は、この希望にすがるしかないのだから。
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