紅の華

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 千年の都、京都。  明治という近代の幕開けを前に、この街では様々な思惑を持った男たちが己の志を貫かんとせめぎ合っていた。   そんな男たちの癒やしとなったのが(くるわ)の女たち。  ここで繰り広げられるのは、男と女のせめぎ合い―――   「雛菊、仙之助はん来よったで」  番頭に呼ばれ、雛菊は自室を出て客室に向かった。煌びやかな見世の廊下をゆっくりと歩く。目的の部屋の前で、雛菊は立ち止まった。禿(かむろ)がそっと襖を開ける。 「まあ仙之助はん。また来てくれはったんどすの。嬉しおすわぁ」  待っていたのは馴染みの男、名を進藤仙之助といった。  雛菊が部屋の入り口に座りお辞儀をすると、後ろで襖がスッと閉まった。部屋は、仙之助と雛菊だけの空間となった。 「だからその、京言葉は無理に使わなくていいよ」 「だって、こういう風にしていないと番頭さんに怒られるんだもの」雛菊は頬を膨らませた。 「そうか。だが、無理をして京の言葉を話すのは疲れるだろう。俺といる時は江戸の言葉でいいんだからな」     
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