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「君のお得意の変装術を駆使して、エストの国民にさり気無く訊いてみるのだな。いずれにせよ、私の話が本当かどうかを確認するのだろう?そうしないとターゲットを始末するかどうかを決められないからな」
「何故、そんな事まで知っている?」
男はククっと笑った。
顔は見えなくとも、今度は音が聞こえたから間違いない。
「私には部下がいてね。優秀な部下達だ。その部下を色々な所に放って、君のやり方というのを調べさせたのだ。私には、『依頼人は顔を晒す事』という約束を、どうしても守れない理由がある。だから君の事を探ったのは、その詫びだと受け取ってくれ」
詫びだと?
冗談じゃない。
これは脅迫だ。
『お前のやり方は全部知っているぞ。だから、お前の事など怖くない』。
そう言っているような物だ。
ユウは、今度は心の中を読み取られないよう、用心して言った。
「良いだろう。お前の『詫び』に免じて、この依頼を引き受けてやる」
「よろしく頼む。おお、そうだ。報酬の話がまだだったな」
男はポケットから財布を取り出し、20万マニー出した。
「報酬は100万マニー。これは前金の20万マニーだ。前金は報酬の2割なのだろう?」
「報酬は俺が・・」
「まあ待ちたまえ。最近収入が無くて路頭に迷いそうなのだろう?欲を出さない君の性格は買うが、依頼主である私が、これで良いと言っているのだ。素直に受け取るが良い。それとも、もっと報酬が必要かね?」
「・・何でもお見通しって訳か」
「そういう事だ」
ユウはお金を受け取った。
「期限は一週間以内だ。よろしく頼むよ」
ユウは、依頼人のこの言葉を背に受けながらその場を去った。
去り際に名前を訊くのを忘れていた事に気づいたが、どうせタコだのトラだの変な名前しか言わないだろうと思い、やめておいた。
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