嘘を憎んで人を憎まず Underemployment~不完全雇用

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多子はユウの言葉にハッとして辺りをきょろきょろ見回したが、誰もいない事を確認すると、ため息を吐き、またポツリポツリと話し出した。 「その事をその場で問い詰めようとしたけど、やめたわ。どうせ『ミナは猫の名前だ』とかって言い訳をするに決まっているんだから」 確かに、話の筋は通っている。 裏切り行為と非力な女性に対する暴力行為は、ユウが嫌いとする事である。 よって、ターゲットは、ユウにとっては始末すべき対象である。 しかし・・ 妙なモヤモヤが残る。 不倫をしているような奴が、証拠を残しておくようなへまをするだろうか? DVは、本当にターゲットから受けた物なのか? 数十万マニーのネックレスは、本当にターゲットが購入した物なのか? これらの疑問を解決しなければ、次の行動には移れない。 「二週間、待っていただけますかな?」 ユウが唐突に話し出した。 「おかしいわね。噂では一週間が相場だと聞いていたけど?」 「仕事によって当然期間は変わります。時間がかかる代わりに、前金は報酬の10%に値下げさせていただきます」 それを聞くと、多子の顔がパッと明るくなった。 「あら、嬉しいわね。で、いくらなの?」 「今回の報酬は20万マニーとさせていただきます。前金はその10%なので2万マニーいただきます」 「あなたがそんな事、勝手に決めちゃって良いの?」 「それはもう。私は交渉の全権を任されておりますので」 普通は前金として報酬の20%を受け取るのだが、依頼を引き受けても、その依頼を達成する可能性が低いと判断した場合、前金を下げる事にしている。 何故なら、仕事を実行する気が無いのに報酬を得るのは、プロとしてのプライドが許さないからである。 とは言え、色々調べるためにはやはり費用がかかる。 その費用分ぐらいはもらってもバチは当たらないだろうと考えた。 要するに、背に腹はかえられないのである。 多子は財布から2万マニーを出して、ユウに渡そうとした。 が、ユウはそれを受け取らず、低い声で話し始めた。 「その前に、最後に一つだけお聞きします。あなたは真実を述べていますね?嘘、偽りは一つもございませんね?」 その言葉に、多子の全身が硬直するのが分かった。 ユウは続けた。 「もし、嘘、偽りがあると判明した場合、メールの注意書きにもあったように、あなたのお命をいただく事になります。よろしいですね?」
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