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「聞こえなかったのか?『貴様らのような屑は、絶対に容赦しない』と言ったんだ」
ユウは再び歩き始めた。
「この先、何度同じような目に会うんだか・・」
実際、目的地に着くまでに3回も男達に襲われた。
ようやく目的地の酒場のあるビルにたどり着いた。
そこは、薄汚れた5階建て(地上3階、地下2階)のビルの地下2階部分にあった。
本来、エレベーターがあって然るべき建物だが、ここにはそんな豪華な物は無い。
仕方なくユウは階段を下りて行った。
地下2階部分には、この酒場しか無い。
だから表札も何も出ていなかったが、迷う心配も無かった。
酒場のドアを開けた。
酒場内は音楽が大音量で流されており、たくさんの男達で賑わっていた。
ざっと30人はいるだろうか。
汚いわりに繁盛しているようだ。
男達は酒を飲んでふざけ合ったり騒いだりしていたが、隅の席で、他の男達とは一切語らず、1人で黙々と酒を飲んでいる男が見えた。
男は黒いハンチング帽をかぶっていた。
今回の目印は『黒い帽子』だ。
ユウは自分の黒い山高帽を掲げながら、その男に近づいた。
「あなたが依頼人ですか?」
「そうだが、あんたが始末屋か?」
ユウは男の正面の椅子に座った。
音楽が煩いので、やや大きな声を出さないとかき消されてしまう。
とは言え、他の客とは距離も少しあるので、会話を盗み聞きされる心配は無いだろう。
男は30代後半ぐらいだろう。
髪の色は黄色で、口ひげを蓄えており、肌はかなり日に焼けている。
しかも、かなり体を鍛え上げているようだ。
筋骨隆々としており、特に二の腕の太さは、ユウの腕の2倍近い太さがありそうだ。
見た目だけなら、船乗りと言っても過言では無い。
だが、その体から発せられる独特のにおいとオーラは、間違いなく同業者だ。
「いえ、私はただの秘書でございます」
「へっ、そりゃそうだ。あんたみたいなじじいが『不可避の暗殺者』な訳が無いからな」
『不可避の暗殺者』。
いつの間にかユウに付けられた綽名だ。
他にも『最上級の殺し屋』と呼ばれる事もあるが、前者の方がポピュラーなようだ。
「年寄りにはちと煩いだろう。配慮が足りなくて悪かったな。何せあんたみたいな爺さんが来るとは思ってなかったからな」
『配慮』という言葉の意味を知っているような人種なのか、あんたは?と言う言葉を、ユウは飲み込んだ。
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