何でもお見通し Ugly~不快な

2/4
109人が本棚に入れています
本棚に追加
/1044ページ
要するに自分を守りたいのであれば、嘘偽りなく、ありのままの自分をさらけ出した方が良いのだ。 それが嫌なら、暗殺など頼まなければ良い。 ユウは立ち去ろうとした。 すると、男が落ち着いた声で言った。 「待て、始末屋」 ユウは立ち止まった。 そして依頼人の方を見ずに言った。 「私は、ただの秘書でございます」 「無駄だ。君が始末屋本人、つまり『不可避の暗殺者』である事はすでに分かっている」 ユウは驚いて振り向いた。 何とか驚きを顔に出さずに済んだが、心のわずかな動揺は見透かされたに違いない。 今の言葉で、この依頼人の手強さを痛いほど理解したからだ。 「流石だ。予想外の事を言われても全く表情に出さない。だが、わずかな心の動揺は隠しきれなかったようだな」 ユウは黙っている。 「無理も無い。君が予想だにしていなかった事だろうからな。どんなに心を殺す訓練をしていようが、予想外の事が起きれば感情が動く。それが人間と言う物だ。人間とは感情的になる生き物だ。感情の高ぶりは自分自身にも抑える事は出来ないのだ。そういう所が、機械とは根本的に違うのだよ」 「・・御託はもう良い」 ユウは観念した。 この依頼人を騙す事は不可能だと悟った。 ならばもう自分を偽る必要は無い。 「それにしても良くしゃべるんだな。意外だったよ」 「これは失礼。私の癖でね」 「癖だと?」 「ああ。自分の知識を話している内に気分が良くなってしまってね。ついつい辛辣な言葉が止まらなくなってしまうのだよ」 「・・望みは何だ?」 「とりあえず、私の話を聞いてくれ。それが望みだ」 ユウはベンチに戻った。 「良いだろう。話だけは聞いてやる」 「助かる」 依頼人はそう言うと、写真を一枚、ポケットから取り出した。 「こいつがターゲットだ」 ユウは写真を受け取った。 15~16歳ぐらいの、桃色の瞳と、明るい紫色の髪の少女だ。 高価なドレスを着ている。 ユウは心なしか、どこかで見た事があるような気がした。 それを察してか、依頼人は笑ったような感じがした。 もちろん顔はサングラスとマスクで見えないので、実際は笑ったのかどうか分からないのだが。 「見た事があるだろう。当然だ。その少女は、最近即位したエスト王国の王女だ。テレビとか新聞とかで見たんだろう」 確かにそうだった。 それは、まだユウが暗殺組織にいた頃の事だ。
/1044ページ

最初のコメントを投稿しよう!