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約2時間前の事だ。
王宮に一通の手紙が届いた。
それには、『以前誘拐された新市街の女性達の遺体が、旧市街の某酒場内の壁に埋め込まれている』と書かれていた。
その酒場とは、ユウが寅と会ったあの酒場である。
この手紙を出したのは、ユウである。
ユウは寅から『誘拐した女性達の口を封じた』と聞いた時から、女性達の遺体の在処が気になっていた。
そして、それは皮肉にも、旧市街でジニアの噂を聞いている時に分かったのだった。
何故なら、『王女が怪しい男と会っていた』とか、『王女が旧市街の顔役と親しくしている』という情報はあったのに、『酒場から大勢の男が何か大きな荷物を運んで出て来た』というような情報がまるで無かったからだ。
もしこの情報を口止めされていたのなら、当然、王女との関係も口止めされていたはず。
まあ、王女の件は後に嘘だと分かった訳だが、旧市街の人間にとってこうした情報は、自分の稼ぎにもなるし、自分の命を守る事にもなるので積極的に発信するはずだ。
『黙ってれば見逃してやる』という約束は、旧市街の連中にとっては、あって無いような物だからだ。
にも拘わらずそういう情報が無いのなら、答えは一つ。
『酒場に入った被害者達は、まだ酒場から出ていない』という事だ。
この事に気づいたは良いが、ユウは当初はジニアの事を快く思っていなかったので、放っておいた。
しかし、今は少しでも国民からの信用を取り戻してほしいと考えた。
だからこそ、昨日家に戻った時に手紙を書いておき、約2時間前にここに来た時に、さりげなく王宮の見張りに見える場所に置いておいたのだ。
手紙を読んだジニアは、王宮の兵士や新市街の警察、旧市街の警察などを総動員し、その酒場の解体作業を進ませた。
そして、誘拐された女性全員の遺体が発見されたのである。
ジニアの演説は続いた。
「そしてこの事により、新市街の住民は、旧市街の住民の事を、危険で愚劣な存在だと見下し、旧市街の住民も、新市街の住民の事を、苦労知らずで育ちの良さを鼻にかける嫌な存在だと妬みました。最後には両者共に、『王女は、自分達がひどい目に会っても何もしてくれないのだ』と思うようになりました。これにより、伯爵の企ては成功したのです。ですが・・」
ジニアはまた言葉を止めた。
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