嘘を憎んで人を憎まず Underemployment~不完全雇用

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「ふん。まあ良いわ。こっちは依頼を果たしてもらえればそれで良いんだから」 「では早速・・。ええと・・」 ユウは少し戸惑った。 「何とお呼びいたしましょうか?『依頼人様』では、何かと不便な気が致しますし・・」 「そうね・・。じゃあ、タコとでも呼べば?」 何故タコ? そう思ったが、依頼人がそれで良いのであれば、それでも良いかも知れない。 「では多子様。早速、ターゲットの写真を見せていただけますか?」 多子は、ハンドバッグから写真を一枚出した。 二十代後半ぐらいの橙色の髪の爽やかな好青年だ。 「ターゲットとの関係は?」 「夫婦よ。夫はエストの大企業に勤めているわ」 念のため、企業の名前も訊いた。 その企業は、誰でも知っているような大手企業だった。 「始末したい理由をお聞かせ願いますかな?」 「夫の不倫、DV、お金の浪費。そんな所よ」 「そんな事をするような人には見えませんがねえ・・」 「人を見た目で判断すると、痛い目を見るわよ」 「ごもっとも・・」 そうは言ったものの、ユウはこの稼業を続けていたおかげで、見た目で人を判断する術を身に着けていた。 それは、見た目だけで無く、体から発せられるオーラみたいな物も含めてである。 ユウが見た感じでは、ターゲットよりも依頼人の方が、はるかに依頼人が言った事をする条件を満たしている。 「不倫、DV、散財の証拠などはございますか?」 「これよ」 多子はそう言って、自分の手や足の青あざを見せた。 十数か所はあるだろうか。 続いて、財布からレシートを出した。 数十万マニーのネックレスのレシートだ。 「このレシートが夫の部屋に落ちていたの。どうやら『ミナ』という女に貢いだようね」 「ミナ・・ですか」 「ええ。何だか最近、夫の様子が変によそよそしかったから休日で二人とも家にいる時、買い物に行くと言って外に出て、すぐにそっと家に戻ったら・・」 多子はわなわなと震え出し、強い口調になった。 「夫が、『ごめんなミナ~。最近放っておいて・・。妻にばれそうだったからさ~』とか、ネコナデ声でしゃべっていたのが聞こえたのよ!」 「多子様、落ち着いて・・」 ユウは多子を宥めた。 周りの人間に注目されたら困るからだ。 とは言え、幸運にも周りに人はいなかった。
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