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「へぇ。今回は、えらく若い生贄だなぁ」
黒い布を纏った、大きな鎌を持った男は、そう言った。その男がどのようなものか知っていたが、初は怖くなかった。男は、そんな初に驚いたように聞いた。
「お前、俺や死が怖くねぇのか?」
「ええ。だって、私の番が来ただけだもの」
「へぇ、肝の据わった娘だなぁ」
初は、男の後に続いて歩いた。
初の生まれ育った村は、貧しくも楽しく生きる人々でいっぱいの村だった。初の家は小さな米農家で、初も幼い頃から、両親の手伝いをした。
そして、村の人間が最も恐れる行事があった。それは、年に一度、この一年、嵐や飢饉が起こらないように、この村と隣町の繁栄を祈り、隣町の海に隣する崖から、村の人間を一人、生贄として身を投げるというものだった。
初が十六になった時、生贄に出せる人間が、殆ど居なくなっていた。生贄に出せるのは若い女と、隣町の長が二年ほど前に決めた為だった。初より三つ年下の妹を生贄になんかできない。と、初は自ら生贄になる事を決心した。
「生贄を出して嵐が来ねぇなら、苦労しねぇのによ。生贄なんて、無駄だって思わねぇか?」
「そうかもね。毎年生贄を出しても、嵐は毎年来たから。でも、何らかの意味はあるはずよ。今まで生贄として死んでいった私達だって、無駄なことのために死んだんじゃない。そう思いたいじゃない。こんな無駄な、馬鹿なことをしてたんだって、誰かが気付いて、この行事をやめたなら、それで十分意味はあるでしょ」
「…そうかい。悪かった、無駄だって言っちまってよ」
少し俯いて詫びる男を見て、初は笑った。
「フフフッ。死神のくせに、死人に謝るなんてね」
「俺が悪りぃし。それに、死神は全員が無礼で冷酷な奴じゃねえよ。俺も、優しかねぇけどな」
「フフッ、分かった。覚えとくよ」
「そいつはありがてぇこって」
何故かへりくだった様な言い方をする男がおかしかった初は、また少し笑った。
「ありがとう。あんたみたいな死神でよかったよ」
冥府であろう花畑が見えた所で、初は男に言った。
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