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がらんとして殺風景な部屋、男が一人、椅子に座り携帯電話を耳にあてている。
「もしもし。ああ、うん。元気にしてるよ。そっちは?そう。どうしたの、急に。ああ。いや、別に行く気はないんだけど。うん、うん。じゃあ、とりあえず転送してもらえるかな。分かってるよ。うん。ありがと。正月には帰るから。うん。また、連絡するよ」
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実家からの電話を切り、僕はため息をつく。吐き出された呼吸の分、反対に身体の中に悪いものでも口から吸い込まれたのか、いつもの頭痛が襲ってくる。思わず、左耳を手で覆う。
「ご実家?」
声につられ、顔を上げると彼女が音もなく部屋に入ってきていることに気づく。
「うん」
「なんて?」
「同窓会の通知が来たって」
「そう」
朝の陽ざしが部屋に差し込んでいる。けれど、気温は低く、部屋はまったく暖まっていない。
「行くの?」
「ううん」
「どうして?」
「今日は雪が降るかもしれないって」
「まだ、気にしているの」
「そんなに薄着で寒くないの?」
こんなにも寒いのに彼女は半そでの夏服だ。
「別に」
「そっか」
「後から悔いるって書いて、後悔って読むんだよ」
「止めてくれないかな、そういう言い方」
「どうして?」
「今、昔のこと思い出してたでしょ」
「別に」
「嘘。絶対、思い出してた」
「思い出してないって」
「本当に?」
「うん」
「じゃあ、思い出させてあげる」
彼女がゆっくりと近づいてくる。
その顔には優しげで、それでいて底の伺いしれない笑顔が張り付いている。
浮かんで。
消えて。
結んで。
閉じて。
私とあなた。
どこかへ行けるなんて勘違いを。
いつも。
いつも。
どこまでも。
そうして。
昨日も。
そうして。
そうして。
明日も。
そうして。
今日も。
さようなら。
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