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第1幕ー事件後-
1998年、3月。
安藤は座って段ボール箱に本を詰めている。
そこへ、杉本がやってくる。
「よ、久しぶり。・・・向こうヘは、再来週だっけか?・・・荷造りは間に合いそうなのか?」
杉本は安藤に話しかけるが、彼はどこ吹く風。相槌も打たず、ふらりと部屋から出て行ってしまう。そんな様子を見て、誰もいない部屋で杉本は鼻で笑う。両手に本を抱えて、安藤はすたすたお部屋に戻り、ようやくちらりと杉本を見やる。
「で、何の用事だ?」
「本当に、もう。なんか、ないの?久しぶりにあった友達にさ。」
「二週間ぶりだから、それほど久々じゃない。それと予定通り、再来週には向こうへ行く。荷造りは今、やっている」
「そうみたいね」
「で、何の用事だ?暇じゃないんだ」
「あのさ、お願いがあるんだけど」
「暇じゃないって言ったはずだ」
「いや、それは分かってるんだけど」
「けど?」
「お願いします!」
安藤がため息をつく。
「仕方ないな」
「さんきゅ、助かる!安藤のそういうとこ大好き」
「で、何?」
「お前ってさ、あれだよね。名探偵なんだよな」
「何を今さら」
「一応、確認をさ」
「随分と見くびられたもんだ」
「その、名探偵のお前を見込んでさ。解決してほしい事件があるんだ」
「なんだ、そういうことか」
「じゃあ」
「断る」
「おい、ちょっとは話を聞いてくれよ」
「どうせ、つまらん事件だろ」
「つまらん事件て」
「僕は名探偵なんだ。名探偵は名探偵に相応しい事件しか解決しない」
「だったら、問題ない。名探偵にとびっきり相応しい事件だ。だから、話、聞いてくれよ」
「…いいだろう。これで迷い犬の捜索だったりしたら…」
「大丈夫。大丈夫って言い方は、変だけど。…殺人事件だか」
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