3人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
流れる川を眺める。
もっと濁っていると勝手に思っていたが、意外に澄んでいてきれいな川だ。
不思議と清々しい気分だ。
もっと恐い物かと思っていたが、今は安らいでいる。
「おいッ、早まるな!」
「うわ!」
いきなり両肩を掴まれて驚いた。
「な、なんですッ、あなたッ?」
「いや~やっぱここに来たら、やっておかなアカンと思って」
そこには小太りの、おじさんと呼ぶには歳とっていて、おじいさんと呼ぶには失礼になる感じの男性が立っていた。
「早まるも何も、もう僕たち死んでいるじゃないですかッ」
そう、ここは三途の川の渡し船の待合所。
今、僕はあの世へ行く船を待っている。
「だからええやないの、お約束や、お約束」
「お約束って……」
死んでまで、こんな思いをするとは思わなかった。
「まぁまぁ、ここで一緒になったのも何かの縁や」
おじさんが名乗ったので、僕も名前を言った。
「それにしても兄ちゃんまだ若いのに、どうしたん?
ワイは糖尿患ってポックリやけどな」
見た目まんまのおっちゃんだな……
「ぼくは橋の上で川を眺めていたら、友達が『早まるなー!』ってふざけたら川に落ちて……」
「マジか兄ちゃん、シャレにならんで……」
─了─
最初のコメントを投稿しよう!