1

5/7
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
私はしばらく、ただじっとその炎を見つめていた。神様が全ての蝋燭に火を灯した後も。ゆらゆら揺れる、小さな命を。 「私、時々思ってたことがあるの。」 「うん。」 「別に不幸じゃないと思う。家族がいて、友達がいて、暖かいベッドがあって、毎日毎日、変わらない日々を過ごして。」 「うん。」 「でも無性に死にたいくなるときがあった。きっかけはないの。ただふっとした時に。」 自分の傷一つない手首を見て、無意味に首筋に手を当ててみて、舌を出して結構強めに噛んでみたり。 死ぬ気はない。ただ死んでみたいと思う時が、私にはある。 そんなある日、事故にあった。そこで私の記憶は途切れている。きっと、私は死の淵を彷徨っている最中なんだろう。そこで命に出会った。潰えたものに、僅かなものに。 「私の火も、まだ燃えてるの?」 「本来なら教えちゃダメだけど、うん、燃えてるよ。まだまだ、これからも燃え続けられるくらい。」 「そっか。」 「何か見つかった?」 少年のフリをして、大人より思慮深い声が心地よい。風が吹くたび心が芯まで和らいでいく。ここで命が生まれる。最後の蝋を溶かすまで、ただ懸命に生きている。それは1000の映画よりも心を打つ。きっと私は一生を捧げても、これ以上美しいものは見れない。 硬い決意も明確な根拠もない。ただ、一つだけ、思った。     
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!